ART TRACE GALLERY

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Introduction(序奏) / Exposition(提示部) / Rapid Final(速い終わり)

岡本 羽衣 Hagoromo Okamoto

 

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2021年3月13日(土)-4月4日(日) 12:00-19:00 水曜休廊 
March 13 - April 4, 2021 12:00-19:00 closed on Wednesday

★ゲスト・パフォーマンス公演 3月14日(日) 17:30-18:30

「じょ_は_きゅう」/ jyo (introduction)_ha (exposition)_kyu (rapid final)

私たちが生きている生活圏では、どのような動きや音のリズムが広がっているでしょうか?能で扱われている「序破急」では、リズムに関する概念によって演者の動きや謡などが単調ではない抑揚のある演技を構成しています。能などの舞楽のみならず、わずかな動きや音にさえも「序破急」があるといわれていることから、根本的かつ基本的なこの概念をもとに、この時代に改めて身体性のゆくえを探るために、絵画が置かれている空間で能役者の清水寛二氏がパフォーマンスを行います。「自己の身体性が外部の世界と接触することで"質的な感覚"を獲得できる」と考える岡本の絵画作品に清水氏のパフォーマンスが反応することで、世界に応答する身体性のあり方を今一度、問い直します。

*コロナ感染拡大の影響により公演は人数を限定し、後日、映像作品として展示会場に設置する予定です。(定員20名程度を予定)

 

ゲスト:清水寛二(しみず かんじ)

能役者。1953年奈良県生まれ。早稲田大学教育学部卒業後に銕仙会に入門。故観世寿夫、故八世観世銕之亟、九世観世銕之丞に師事する。近年では2019年にウィーン・パリ・ワルシャワにて新作能『長崎の聖母』、『ヤコブの井戸』公演を行う。現代劇、ダンスなど他の表現分野との共同舞台や、琉球の組踊、中国の昆劇、インドのクーリヤッタムなど、他の伝統芸能と共同での舞台作りにも取り組んでいる。本展示の作家、岡本羽衣の映像作品『冷骨』2018年にも出演。公益社団法人銕仙会理事、東京藝術大学非常勤講師。

 

イベント予約ページ https://forms.gle/cKckLq4ZZHAR4etY7

Guest performance March 14, 2021 17:30-18:30

 

 Introduction(序奏) / Exposition(提示部) / Rapid Final(速い終わり)

クル | KURU no.2/Oil on Canvas/227 x 158mm/2021

 

 本展のタイトル、「 Introduction(序奏) / Exposition(提示部) / Rapid Final(速い終わり)」は、日本の伝統芸能である能のリズムの概念で扱われている「序破急」の意味を英訳し、()は、それを日本語に戻した言葉からきています。「序」にあたる序奏(Introduction)はゆっくりと物事の始まる「いとぐち」のような状態を指し、「破」は「序」に横たわる静けさを破り展開していく提示部(Exposition)となり、最後の「急」ではクライマックスへと一気に展開し、速やかに終わる(Rapid Final)という様子を表しています。

 鋲で麻布を貼り、膠を引き、絵具を塗るという一連の行為は、油彩画の基本的な作業ですが、岡本は麻布を木枠に貼るところから行為(アクト)が始まっていると考えます。麻布の生地や膠の関係がその後の絵具の状態に大きく影響し、滲みや擦り跡などの行為の痕跡となるからです。また、岡本は身体を介してアクトを行うことで、それらのアクトが蓄積された画面上の絵画空間は、能が演じられる舞台空間と同様の質、何かが立ち起こる「現場」としての類似性を持っていると言います。

 

 アクション・ペインティングにおいて画家は演技する人になったが、しかし、この演技はいわゆる演劇ではないから、俳優は演出家なき演出家によって動かされる。そうだとすれば、画家は「第二の人格」となり、画家ならぬ画家という演出家によって絵を描く媒体として振舞うのである。 藤枝晃雄『ジャクソン・ポロック』(1994年、スカイドア、p.117)

 

 藤枝は著作のなかで、画家のアクトによって描かれた絵を単に、「ハプニングの終わった痕跡、つまり結果」として一方的に意味づけることに意義を唱えています。岡本の新作における「アクト」の蓄積する絵画空間(岡本の指す「現場」)もまた、アクションが自己完結的に表象される場として在るのではなく、むしろ臨場感を伴う現場のなかで、絶えず生成されるアクトの過程こそに価値が見出されているのだと言えます。

 6年前に能と出会い、実際に体験したりしながら、そこに内在する世界の重厚な奥行きと精神性の一端に触れた岡本は、自身の作品制作、絵画を描く過程の中においても同様に、能の基盤を構成するひとつの概念「序破急」が存在しているのではないかと気づきました。新作の絵画シリーズに付けられたタイトルである、「クル」、「ウ」、「¬(まわし)」などは、能の謡いの抑揚を表す記号から引用されており、岡本のアクトによって画面上に表出した強固な物質性を伴う絵具の痕跡は、演者によって身体から発せられる声そのものを想起させます。

 「自己の身体性が外部の世界と接触することで、視覚(見るという行為)でさえも”質的な感覚”を獲得できる」と考える岡本は、新作の絵画において、流動的な筆致、躍動するメディウム、観者の視点を一点に留めさせないオールオーバーの構図を意図的にコントロールすることで、絵画空間上に生起する多視的な「物質」を自らの身体を介した「アクト」によって探り続けます。

 

作家略歴

岡本 羽衣 / Hagoromo Okamoto

https://hagoromookamoto.tumblr.com/

1990年生まれ。物体に対する視覚的認識を通して、人間の意識に直接的に触発する仕組みとして「クオリタティブ・エヴィデンス」(質的証拠品)をテーマに、パフォーマンスや絵画、インスタレーション、映像作品などを扱っている。 今なお残存しながらも社会のなかで置き去りにされ続けてきた場や歴史的事件などに焦点を当てながら、視覚的体験によって身体を介した質的な感覚を触発する作品から、他者を自己化する還元的方法を模索する。これまでの展示に 個展「Gazing Horizontally」(ART DRUG CENTER、宮城、2020)、「The Noisy Garden, The White Crypt」(ART TRACE gallery、東京、2020)、「Endless Void」(Democracy and Human Rights Memorial Hall、ソウル、2019)、個展「Middle of Nowhere」(mumei、東京、2018)、個展「今でも、なお、私は、朝食を、食べている(邦訳)」(SomoS、ベルリン、2017)など。